男は誰でも魔石無しに“聖”なる属性を持っているんだと思う。
少なくとも、俺はそう思う。





男の属性論。
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俺は何も言わずにシャワールームのドアを開けた。


「ちょっ、ロック、何・・・」

泡だらけのセリスが反射的に胸を隠すが、もう遅い。

「もう待てない」

舐めるように囁きながら手首を壁に押し当て、強引に唇を奪う。
ちらりと視線を動かすと、肩口の泡が凹凸豊かな身体のラインをなぞって
流れ落ちていくのが見えた。それさえもいやらしく誘っているように見えて、
俺の理性の最後のひとかけらも一緒に流れ落ちた。


乱暴に胸を揉みしだき、抗議の唸りが返ってくると俺はすばやくその手を内股に滑らせ、
隠れた敏感な突起を撫で上げる。急な刺激にセリスの抵抗が一瞬止まり、
その隙を見逃さず脚を絡めて膝を割る。

唇の隙間から洩れる喘ぎはおそらく何故と問うている。
なんでかって?
セリスが好きで好きでたまらなくて・・・だからこそ、余計にめちゃくちゃにしたい時もある。
俺はセリスのまだ抵抗をやめない強い眼差しに満足すると、
愛撫もせず、熱くたぎる己をねじ込ませた。


ただ体勢のせいか思うように深い挿入ができず、
俺は少し苛立って、セリスの両脚を抱え込むと
壁にその背を押し付けるようにして何度も腰を突き上げた。
くぐもった声はタイルに反射していつも以上に艶やかに響き、
セリスは驚いて声を殺そうと必死に唇を噛むが、
そうすればするほど鳴かせてみたくなるのだというのがまだわかっていないらしい。
困惑と、嫌悪と、見え隠れする悦びで潤む瞳に背筋をゾクゾクと撫で上げられ、
俺は独りよがりに昇りつめていく。


なあセリス、風呂場も悪くないだろ?
卑猥な水音も、熱い呼気も、ここなら全てうやむやにできる。
さあ乱れてみろよ?
どれだけ激しく愛し合っても、水が全て流し去ってくれる。


なあ、セリス・・・
・・・




……
・・・・・・まずい。

ここまで妄想したところで、ロックは年甲斐も無く赤面してしまった。
見下ろすまでもなく、下半身はすでにスタンバイできている。
セリスはまだシャワーからあがってこない。
ロックは自分の豊かな想像力ににため息をついてうなだれた。


(俺は・・・アホか)

持って生まれた聖(サガ)とはいえ、
入浴中に年上の男がこんなにギラギラして待っているなんて、
二十歳前の女からしたらドン引きもいいところだ。
私でなくて私の身体が好きなのねと泣かれても何らおかしくはない状況だ。


だけど、と膝をつかむ手に無意味に力を込める。

自分のやましい心を差し引いても、有り余ってセリスの身体は美しいとロックは思っている。
形の良いパーツ、きめ細かい肌。本人は戦でついた筋肉や傷跡を気にしているが、
ロックが無問題と考えているのだからあとは誰かが気にする必要もない、全く無い。
あれは男からしたら宝だ。セリスはスキンシップのときも極力身体を見せたがらないが、
そんなの宝の持ち腐れだ。
宝とはそこにあるからではなく、発掘されるからこそ価値があるのだというのがロックの持論だ。

そんな宝が目の前にある以上、もっと自分の五感全部を使って吟味したい。
ロックはつくづくそう思う。


しかし彼はエドガーのように異性を惑わす言葉も持たず、
セッツァーのように強引さを良しとする確信にも至れない。
直球が唯一の武器となるが、さっき思い描いた悪さでもしようものなら
どうなるかは改めて考える間でもない。
魔法以外に効くかは知らないがこの溢れる欲望に魔封剣でも使われたら、
おそらくひと月は使い物になるまい。
何がとは言わないけれど。


――でも。

一度ぐらい明るいところで、布団も被らずにいたしてみたい。
ふしだらなセリスを穴のあくほど眺めたい。 
己の属性の名の下に、心ゆくまま男のホーリーを解き放ちたい。

ジレンマが悶々と新たな入浴映像にすり替わってきたところで、シャワールームのドアが開いた。



「お待たせ。長くなっちゃったね」
「そんなことないよ」

待ちくたびれた上にしょうもない妄想に囚われていましたとは口が裂けても言えず、
ロックはいつもの笑みで(下半身は丁重に隠して)ぬるくなった紅茶を差し出した。

セリスはほかほかと湯気の立つ髪をふわりとかき上げて、ありがとうとグラスに口をつけた。
こくこくと飲み干す喉の動きと横顔をロックはじっと見つめた。
ああ、今夜も綺麗だ。…あれ、綺麗なんだけど。


いつものように他愛のない話をしながらベッドに入る。話題も途切れがちになると、
不意にセリスの方から唇を求めてきた。

ロックは動揺した。
ま、まさかチャンス到来か?
ランプを消そうと伸ばしかけていた手を思わず引っ込め、
瞬時にあらゆるシチュエーションを想定する。
待て待て、ここでがっついたら折角の…
いや、待て。何かひっかかる。
少し離れて、下心無しにセリスを穴のあくくらいじっと見る。


・・・やっぱり。

「セリス」

目を真っすぐに見据える。

「お前、今日疲れてるだろ」

「そんなこと・・・」
「風呂上りなのに顔色が良くない。目元も、少し重そうだ」
「・・・」
「無理すんな、今夜はもう寝よう」

セリスの頭をポンとひと撫でして、ロックはランプの灯を消した。
セリスは申し訳なさそうにロックの胸元に額と指先を寄せてもじもじしている。


「だって・・・ロックは楽しみにしてたでしょう」

口にするのもためらいながら、小さな声で。これを可愛いと言わずして何と言おう。

「あのなあ」

自分の頭をわしわしと掻いて、ロックはセリスの頬を両手で引き寄せた。


「そりゃあ、抱きたいさ。毎日だって愛したい。
 だけど、セリスに我慢させて付き合わせたりとか
 早く終わればいいのになんて思わせてるんだったらそんなの御免だ。
 どんな時だって、セリスも楽しくなきゃ俺は絶対に嫌だからな」


また直球を投げてしまったと、口に出してから反省する。
けれど、それがロックの偽り無い一番の気持ちだった。
セリスが嫌なら、自分が求める意味が無い。


意外そうに目を丸くすると、セリスははにかむように微笑んで、
鼻先同士がくっつくくらい顔を近づけてきた。


「ありがとう。本当は、強い魔法をたくさん使ったせいで少し眩暈がするの」
「そらみろ。じゃ、埋め合わせはまた今度な。今夜は俺が歌ってやるからそれで眠れよ」
「眠れなくなったりして」
「うるさい、早く寝ろ」

やや調子はずれの、ほとんど鼻歌の子守唄に、
セリスはくすくすと笑いながらやがて静かに眠りの渕へ身を委ねた。
ロックはそれを目を細めて見届けつつ、セリスへの惜しみない愛情を改めて誓う。







――そうは言ったものの。

気持ちはともかく身体の準備がすっかり出来上がっていたロックは、
セリスが完全に寝入ったのと同時に振り上げた拳の下ろしどころを探す作業に入った。
このまま並んで清らかに眠るのは、正直今夜は無理だ。

かといって隣で不埒な行為を働くわけにもいくまい。

なら今できることと言えば。

(そういえばシャワーは止めてやるのと流しっ放しと、どっちが燃えるんだ・・・)

戯れの続きに描き始めた究極の選択に聖なる審判を下すべく、
夜のホーリー使いはセリスが起きないのを何度も確かめると、
そっとベッドを抜け出してシャワールームに駆け込んだ。




風呂場も悪くない。
どれだけ何かしても水が全て流し去ってくれるから。






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■男の属性論。■

露骨な成年向け描写はお初だったというのに
のっけからドS妄想ZEN☆KAIでスミマセン。
以前某所で投下したのを伏字抜いて…と思ってるうちに
文章長くなっちゃった〜よ。

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■注■
作中に成年向け表現があります。閲覧の際はその旨ご了承ください。